旅するやまねこ舎のつれづれ

旅するやまねこ舎@ローカルブックストアkita.(横浜・馬車道・北仲通り)棚主やまねこが本について語ります😸

孤独をたのしむ本100のわたしの方法 田村セツコ 著

先週あたりから体調が悪い。脚の痛みに加えて軽い熱中症かも。灼熱地獄を生き抜くことができるだろうか?ここ数日は徒歩5分以内のやむを得ない外出以外は動かないでじーっとしている。集中力が続かないので、長時間の読書も辛い。そんな時に手が伸びたのはこんな本。

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「孤独をたのしむ本100のわたしの方法」

田村セツコ 著

2018年5月20日 初版第1刷

2022年3月5日 第6刷

発行所 興陽館  

実は、田村セツコさんをお見かけしたことがある。ちょうど本書の発売直後の夏、ある映画祭のボランティアスタッフとして受付をしていたとき、音符の模様のモノトーンのフレアースカートが目に入った。お連れの方が、「セッちゃん〜」と呼びかけていたので見上げると、田村セツコさんが目の前に。何てチャーミングな方なんだろう…と。

後日、著書で年齢を知り、ビックリ🫢‼️ウチの母と同世代ってウソでしょ〜😻‼️

目からウロコが3枚くらい落ちた気分だった。

本書は、80歳ひとり暮らしをたのしむ田村セツコさんのステキなイラスト付き処世訓…というと固いが、ひとり暮らしに効くお薬のような一冊。セツコさん曰く「孤独はおクスリ。あなたを強くするためのおクスリ&ギフトとして受けとめてくださいね。」と。

子どもの頃、文房具屋さんにあったセツコさんのイラスト付きのノートや鉛筆を思い出しながら、少しでも気持ちを楽にしようと意図して読み進める。

セツコさんはお母さん、妹さんの介護を経験。チャンスをもらった、ありがたいと思ったそう。介護には「さすが」、「おかげさまで」という2つの言葉が点滴よりも効くそうで。

ご自身は29歳から健康診断を受けず、何年も健康保険証を使用していないので、市役所の人が生存確認に訪れたことがあるんだそうで。「健康は最高の節約」と…それはまったく同感。病気になってはたのしめない。

家事とかおうちのことを一生懸命にやることとか、食事のちょっとしたアイデアとか、好きな本を味方にするとか、心の中にアドバイザーのようなもう1人の自分を育てるとか…etc

セツコさんの「おちゃめな生活」。見習いたいところはたくさんある。

遊覧日記 武田百合子 著

7月になりました。昨今の夏は豪雨と灼熱を繰り返す厳しい日々が続きます。コロナ感染予防もお忘れなきよう。ご自愛くださいませ。

昨日は大雨。♪遊びに行きたし傘はなし…昭和の末ごろの夏休みの記憶を辿りながら、こんな本を読んでみた。

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「遊覧日記」

武田百合子 著

1987年4月20日 作品社より単行本刊行

1993年1月21日 文庫版第1刷

発行所 筑摩書房


本書は著者が夫、武田泰淳氏(1912~1976)を見送った後の遊覧の記。冒頭には、泰淳氏の実家である目黒のお寺で暮らしていた時代に生活をともにしたヤエちゃん(会津から出てきた女中さん)のように充実してあちこち遊覧できたら…とある。一人で、または二人で(連れは娘の花さん、文中ではHと表記)行きたい場所へ出かけて行った日記。出かけたところは、浅草、青山、代々木公園、上野、富士山麓、世田谷、京都など。

少し読んだだけで、百合子さんはタダモノではない、という気がしてくる。

どこへ行っても、自分なりの目線で、面白いものを見つけられる。目の付け所はユニークで百合子さんならではの探究心がなせるワザ。

同行したHさんが戸惑うような遠慮のなさも微笑ましく(…というより羨ましい。イマの言葉でいう「KY」かも⁈)天真爛漫に、出かけたところを思う存分楽しんでいる様子が目に浮かぶ。


私が一番気に入ったのは、「8 藪塚ヘビセンター」の章。

なんと❗️現存している‼️

https://www.snake-center.com

著者は、東武線「準急あかぎ」に1時間ほど乗車。木造の藪塚駅前の案内板を見て、桑畑と麦畑の中の幅広い舗装道路をてくてく歩く。車も人もまばらな道。

かつて東武線の車内広告でみて「世界の蛇がいる」というのに惹かれ、いつか行ってみたいと思っていたのがこの日に実現した。

Hさんと一緒に「ジャパン・スネークセンター、日本蛇族学術研究所」を訪問すると、遠足に来ていた小学生や農家のご家族と遭遇。

この後、蛇ってこんなに素敵だったのか、と思わせる百合子さんの描写がしばらく続く。

農家のご家族が食堂で「まむし定食」でもとってみるか、というのが聞こえる。

この件を読み、ついつい、「まむしの蒲焼き」を食べてみたくなってくる。

百合子さんの文章は、よく「天衣無縫」と評されるが、読んでいる私からつまらないこだわりを払拭させ、無邪気な心を取り戻させてくれる。どんなところへ出かけても、こんなふうに遊覧できたら楽しさ100倍‼️

Hさん(武田花さん)が撮影したステキな蛇の写真にもまた魅せられる。

みなさまも、今年の夏休みはぜひココへ🐍❣️

読了したので、来週あたり棚に置きます。ぜひご覧くださいませ😸

 

降りる思想 江戸・ブータンに学ぶ 田中優子+辻信一対談集

昨日は梅雨入り。週末ごとに台風接近。晴れ間に紫陽花でも見に行くか…と思えば、鎌倉の長谷寺は入場制限の列だったらしい。明月院だってあの狭いところに…と諦め、小石川植物園へ行ってきた。

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梅雨が明けると酷暑の夏…となれば、熱中症対策、エアコンの出番。何を隠そう、私は四半世紀前まで自宅にも職場にもエアコンのない生活だった。…でも、もう戻れない。

折しも、先月末には原発運転期間延長法案可決。

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230531/k10014083551000.html

原発のある暮らしはどこまでも…🙀💦

2011.3.11東日本大震災から約1年半後に上梓されたこんな本を読んでみた。

「降りる思想 江戸・ブータンに学ぶ」

田中優子+辻信一 対談集

2012年10月19日 第1刷

発行所 大月書店  

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本書は「ポスト3.11」という転換を「降りる」という語で表した。「原発から代替エネルギーへ」という技術的、物理的な変更は、同時に経済成長至上主義の転換を意味するものでなければならない。これまでのシステムから「降り」て、人々の福祉の実現の方策を江戸時代のスローライフ、ヒマラヤの小国ブータン🇧🇹の指標、GNH(国民総幸福)に探ろうという対談。

江戸時代を研究する田中優子さんと文化人類学者でありナマケモノ倶楽部世話人の辻信一さんは、ともに朝鮮戦争特需、高度経済成長期に生まれ育った。幼少期から眺めてきた風景を回想する中で、失ってきたものに目を向ける。

江戸時代の環境政策の事例や、ブータンのダムを持たないエネルギー政策、母系性コミュニティ、循環型社会etc.…オルタナティブを模索する。

私は2000年にブータン王国を訪ねたが、印象に残っているのが「ドツォ」と呼ばれるお風呂。石を焼いて熱し、湯舟に入れてお湯にする。…今もあるのだろうか?

株式会社いい旅( 第一種旅行業社) が運営するブータン旅行専門のツアーサイト「いい旅ブータン」のリンクを貼らせていただきました。https://etours.world/bhutan/attractive/hot_stone_bath/

何か全然うまくまとめられないが、加速する地球環境破壊からの復讐が、このところの災害級豪雨であることは確かでしょう。

2000年に私が描いたブータンの絵です。(お坊さんの腕が長すぎる…😹) 

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書こうとしない「かく」教室 いしいしんじ 著

5月最終日。朝はJアラートに始まり、出かけようとしたら、東急線が発煙騒ぎで運休。お昼ごろ運転再開直後に再び発煙。自宅待機していたが、結局復旧したのは15:00ごろで外出を諦めた。そのお蔭で一冊読めました😅 

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「書こうとしない「かく」教室」

いしいしんじ 著

2022年4月27日 初版第1刷

発行所 ミシマ社

本書はコロナ禍の最中に行われたミシマ社のオンラインイベントMSLive!「書こうとしない『かく』講座」(2021年4月~6月)と、こどもと大人のサマースクール2020「作文を書こう」(2020年8月)を再構成したもの。1994年に「アムステルダムの犬」でデビューした頃から現在に至るあれこれを語る、という中からいしいしんじさんの創作の背景を知ることができる一冊。

先日読んだ「きんじょ」と重複する内容も多いが、本書の方が時系列に沿った内容になっている。

いしいさんは大阪出身。京都大学文学部卒業後、東京、三崎(神奈川県)、松本、京都と転居。ご実家は学習塾で、曰く「うまれ育った実家には教室がついていた。」

いしいさんの作家としての原点は4歳半の時、「幼児生活団」時代に書いた「たいふう」というおはなしだそう。東京で生活していた32、3歳の頃、20年ぶりに小児ぜんそくが再発し、息ができなくなったいしいさんは医師の判断で実家に帰った。お母さんがつづらに入れて残してくれていた子ども時代の「おはなし」をくりかえし読み、自分の中が満たされていく…それに比べたらいままで自分が書いた本の数々や雑誌に連載したコラムなんてゴミみたいなもんやな…というくだりには心を打たれます。

また、掲載されている創作ノートの膨大なこと‼️

転居先で素敵な人々との出会いと別れ、中でも生涯の伴侶となった園子さんとのエピソード、息子さんの一日くん誕生直後の(臍の緒がつながっている!)写真も‼️

後半の「作文を書こう!」では、具体的なことばからわきあがってくるもの、言いかえれば、自分のなかをひたすら探すという試み。いしいさん流の「れんしゅうもんだい」は、国語の授業とは対極にある、全部正解❗️…というものでした。

さて、次は小説読みましょうね、ホントに😸

 

きんじょ いしいしんじ 著

 先週は延期していた京都、滋賀へ旅行が実現。

 河原町丸太町の誠光社さんへ。

https://www.seikosha-books.com

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 開店と同時に入店し、いろいろ迷った末に買ってきた「きんじょ」を本日読了。

  初めて葵祭が見られるか…と延泊。ところが雨天(開始予定時刻には晴れていたのに…😹)のため1日順延になってしまった😓

また来年~🖐️

「きんじょ」

いしいしんじ 著

2018年6月3日 初版第1刷

発行所 ミシマ社

 本書は、いしいしんじさんと息子さんのひとひ(自称ぴっぴ)くん、奥さまの園子さんをはじめ、しんじさんのご両親やご兄弟の親子三代、また、ご町内の皆さんとの暮らしの出来事を綴ったエッセイ。

ミシマ社「みんなのミシマガジン」に連載されたものを単行本化したもの。装丁がユニークで、棚の中にあって目を引いた。ボール紙の黄色い表紙にマジックで書かれたと思われる「きんじょ」の文字。シールが2枚貼ってある。ミシマ社手売りブックスというシリーズの1冊目らしい。

 いしいしんじさんは大阪出身で、学生時代を京都で過ごし、東京、三浦三崎、松本…各地を経て再び京都へ。息子さん(ひとひくん)ご誕生によりお父さんになった。

 本文をしんじさんが書き、題字、各章の冒頭の地図はひとひくんによる親子の共同作業で誕生。ひとひくんの成長記録を通して京都の人の生活を眺める、といった楽しみ方ができる本。しんじさんのお宅の至近距離に版元のミシマ社さんも私が本書を購入した誠光社さんもある。地産地消…の本。

 ひとひくんが羨ましいなあ、と思いながら、ひとひくん目線で読み進める。このエッセイの主人公はひとひくんに違いない。しんじさんは大阪で大きな学習塾を経営していた(なんと受勲なさったそう❗️)お父さんの元で育ったそうだが、ひとひくんが元気いっぱいに自転車に乗る(京都中の自転車屋さんを回って大好きなBMX購入)までの経緯や、乗馬クラブ「クレイン京都」に入会し、親子で騎乗するエピソードには、しんじさんが子どもだった頃の、輝いていた時間が見え隠れする。(小学校1年生のひとひくんが書いた日記「うまにのったよ」には花丸をあげたい😸)

 しあわせな子どもの時間を共有し、温かい気持ちになれる1冊です。 

 実は、いしいしんじさんの本を読んだのはこれが初めて。

 かつて京都の丸善で新刊記念のイベントがあり、新刊コーナーに「いしいしんじコーナー」が出来、しんじさんは毎日フルーツをテーマに「その場小説」を書く、それを「きんじょ」の皆さんが温かく見守るというというエピソードに、いしいしんじさんの偉業を感じ、次は小説を読みたいと思います。

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恋するように旅をして 角田光代 著

 新型コロナウィルス感染症が5類に移行し、随分久しぶりにマスクなしで外出してみた。あたかも感染症が雲散霧消したかのよう…でも、そんなことはありませんよ❗️

 明日から国内小旅行に出かける前に、角田光代さんの旅行記を読んでみた。大竹伸朗さんの本のあとがきで触れていたモロッコ旅行のエッセイも載っています。

 

「恋するように旅をして」

角田光代 著

2001年4月 「恋愛旅人」として求龍堂より単行本刊行

2005年4月15日 文庫版第1刷

発行所 講談社

 

 なんと豪快な旅をする人なんだろう…というのが第一印象。旅先では何だかんだいつもビールを飲んでいる…ということがわかり親近感を覚える。

 本書には18本のエッセイが収められているが、そのうちの半分は雑誌掲載されたもの。以前定期購読していた「旅行人」に載ったものもあり懐かしさがこみあげる😹

 当時の角田さんの旅は、長期の一人旅。出向いた先で出会った人とのエピソードの面白さと、微に入り細を穿つ情景描写に引き込まれ、一気に読んでしまった。

 一人旅の楽しさを決めるのは、旅先での人との出会いが大きい。しかし、危機一髪、という状況に見舞われることも…そんな時、角田さんはどうやって脱したのか。

 タイの雨季に、増水したビーチで乗ったボートでは絶叫マシンさながら。波におどらされ、たたきつけられて挙げ句の果てに全身水浸しになったり、夜行列車や長距離バスでは虫や暴力的なスピードや過酷な冷房や…過激なエピソードには事欠かない。

 角田さんは地図を読むのが苦手らしく、地図をぐるぐる回しながら見当をつけ歩き出すが決まって間違った方向に行ってしまうので、何十人も人に訊き、二日ほどそれを繰り返してようやく町の地理を知る。

 ミャンマーのツーリストインフォメーションで何のインフォメーションも得られないまま夕方までバスを待つ間のおじさんとのやりとりの後で素敵なものを見せてもらったり、モロッコマラケシュメディナで迷いに迷う中で、何の脈絡もないはずの幼い頃の時間に引き戻されたり。

 訪れた場所に恋してしまう角田さん。次はどんな旅に出るのだろう⁉️

  小旅行から戻ってきたら、棚に置きます。少々お待ちくださいませ😸

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カスバの男 モロッコ旅日記 大竹伸朗 著

 5月3日より愛媛県松山市愛媛県美術館で大規模な回顧展が開催されている大竹伸朗さん。

https://www.takeninagawa.com/ohtakeshinroten/

大竹さんが30年前の夏、モロッコを旅した時の日記を読んでみた。

「カスバの男 モロッコ旅日記」大竹伸朗

集英社文庫

2004年7月25日第1刷

2007年3月25日第3刷

発行所 集英社

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 本書は大竹さんが1993年7月12日から23日までモロッコを旅した時の日記。最終日の日記には、この11日間になんと約200枚のスケッチと約1000枚の写真を残した、とある。さすがアーティストは違うなあ😻❣️口絵にある色鉛筆画や水彩画を見ると、強い陽射しの南国を思い出す。ページのあちこちにはモノクロのスケッチもある。

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 実は私(自称、年季の入った旅ねこ)も、かつてモロッコを旅したことがある。それは1988年の終わりで、行程の半分くらいはアトラス山脈越えのバス旅行。雄大な自然に圧倒された。

 観光客らしくマラケシュのジャマエルフナ広場の喧騒にも足を踏み入れ、写真を撮らせてお金を要求する商売に辟易したが、5年後に大竹さんが旅した時には一層エスカレートしていたよう。

 観光客はカモ、とばかりにしつこく追い回されるから、広場を囲むビルの屋上に上り、高いビールを飲みつつ眼下を眺める…そこまでは追いかけてこないから。

 本書は、1994年5月に求龍堂から発売された「カスバの男 大竹伸朗ロッコ日記」を改題、文庫化。その際に銅版画作品が追加され、大変お買い得になっている。しかも、角田光代さんによる文庫版あとがきがまた素晴らしい。角田さんは旅のエッセイをたくさん書いているので旅好きであることは間違いないが、本書に触発されてモロッコ行きを敢行。なんと読み終えてすぐさまオープンチケットを買いに行き、その数週間後にミラノ経由でカサブランカに旅立ったそう。

 大竹さんの文章を「まるで目と手がいっしょになったような文章…見ることと書くことのあいだに、よけいなものが一切介在していない。」と評する角田さん。彼女は旅に本書を持ってこなかったことを悔やんだが、そのことによって自分の目で見てモロッコを歩くことができてよかった、と書いている。

 旅の時間はもう2度と繰り返されることはないが、絵や写真とともに、当時のことを懐かしく思い出す。

 

 明日、スリップを挟んで棚に置きます。見てくださいね~📚