旅するやまねこ舎のつれづれ

旅するやまねこ舎@ローカルブックストアkita.(横浜・馬車道・北仲通り)棚主やまねこが本について語ります😸

イスタンブールで青に溺れる 横道誠 著

早、10月。今年も3ヶ月を切った。めっきり暮れるのが早くなり、1日があっという間に終わってしまう。先週末にまたひとつ歳をとったが、なるようにしかならないと開き直り、横道誠さんの旅の本をゆーっくり読んだ。

イスタンブールで青に溺れる」

横道誠 著

2022年4月28日第1刷発行

発行所 株式会社文藝春秋

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本書は探検家の高野秀行さんが推していた横道誠さん(京都府立大学准教授、専門は文学、当事者研究)の旅行記

書かれているのは、訪ねた25都市(ほとんどが西欧、加えてモロッコ、エジプト、アメリカ、東南アジア、最後が沖縄)での極めて個人的なエピソードであるが、世界を独自の感覚で受け止め、想起された文芸作品の断片とともに開示する。

副題に「発達障害者の世界周航記」とあるが、著者は40歳の時に自閉スペクトラム症、注意欠陥多動症であるとの診断を受けた。

体の軸芯がゆれ、ふらふらした印象を持たれる。歩くときに両くるぶしをコキコキ回す。簡単な運動でも集中力が爆発的に跳ね上がるため、大きなうねりに流されているような神秘的な感覚を得られる(スポーツ選手の「ゾーン」に相当する)という特性を持つ。

スイスのマイエンフェルトでは、『アルプスの少女ハイジ』の村を延々と歩き、ハイジに自身の体験を重ね、心の病から回復する過程を追体験する。

青に惹かれ、「みんな水の中」という世界を生きる筆者には、モロッコカサブランカのハッサン2世モスクは、青カビが生えたブルーチーズの珍味を連想させ、サハラ砂漠の入口では「自分の体が白い砂塵となって消えてゆく」という想像がわきあがる。筆者曰く「みんな水の中」の世界観の変奏である。

筆者は主にドイツ文学の研究者であるが、ベルリンで本格的な語学学校に入学した際、ドイツ語の文法、語彙は、ほぼ完璧(筆記試験はいつもトップ)なのに、自己紹介から何から口語コミュニケーションに難渋したエピソードなども書かれている。

旅した場所で捉えた物事を、独自の感覚で表現したユニークな旅行記(あとがきには「当事者紀行」とも)として、また豊富な文献の引用を辿り、文芸研究的な視点からも楽しめるエキサイティングな1冊です。

明日kita.の棚に置きますので是非ご覧くださいませ。